3 本件建物の工法
本件建物は「ハウス55」と称する原告の商品だが、木造枠組壁工法の中に位置付けられる木質パネル一体構法(木質系組立構法)によって建築されている(乙4号証1ページ)。「在来木造住宅のように、柱や梁などの『点』や『線』で住宅を構成するのではなく、高精度・高強度の木質接着パネルで床と壁を一体化して建物全体を強固な六面体の『箱』にしていく建築工法(乙86号証)」で、「構造パネルの内部に空気の通り道をつくることで湿気を放出し、内部結露を効果的に防ぐ、独自の『壁体内換気システム』と、外壁と構造パネルとの間に空気層を確保する『外壁通気工法』との併用により、約75年~90年の耐久性を発揮(乙87号証)」すると原告(旧社名エス・バイ・エル株式会社)は解説していた。外壁材には窯業系サイディングを使用しているが、「日本建築学会 建築工事標準仕様書・同解説 JASS27 乾式外壁工事(乙88号証)」や日本窯業外装材協会の解説(乙89号証)でも、サイディングを施工する場合は、外壁材と内部の壁との間に通気層を設ける乾式の「外壁通気構法」を標準仕様としている。
さて、ハウス55住宅は、昭和57年(1982年)に企業化承認を取得して発売され、昭和62年(1987年)には高規格住宅基準型適合を受けている(乙90号証)建設大臣認定住宅である(乙4号証3ページ)。木質パネル一体構法の基本的な設計は現在に至るまで変更はなく、本件建物では外壁通気工法が必須の仕様となっている。
なお、施工者である青木興業は、本件建物請負契約時ないし引き渡し時に設計図書を被告に渡していない。設計図書とは工事金額の根拠となる基本設計と実施設計であり、見積ができる内容のものである。具体的には、配置図・平面図・立面図・断面図・平面詳細図・矩計図・基礎伏図・床伏図・小屋状図・設備図・壁量計算書・軸組図・展開図・建具表・仕上げ表・共通仕様書(標準仕様書)・特記仕様書などで構成されている。住宅建築では、こうした施工内容を明記した厚さ数センチに及ぶ設計図書を施主に渡すのが通例だが、被告が渡されたのは簡易的な図面のみである。つまり、青木興業は本件建物には瑕疵があると知っており、損害の発生を予見していたために、設計図書を被告に故意に渡さなかったと推認できる。